自社株式にかかる相続税負担は会社の存続にかかわる問題であり、オーナー一族個人の問題ではありません。大株主が経営者となっている中堅・中小企業では、経営者の相続によって次の4つのような問題が生まれ、事業の継続・発展に大きな影響を与えることになります。
1.会社による自社株式の買取り
相続税の納税資金を確保するために後継者が有する自社株式を会社に買い取らせるケースがありますが、それによって会社の内部留保が流出して設備投資資金や運転資金がひっ迫する事態に陥る可能性があります。
2.不動産等の事業用資産の売却
多くの経営者が個人資産である不動産を会社に貸付しており、相続税の納税資金を確保するのに後継者が相続した不動産等を第三者に売却した際には会社の事業経営が危うくなる危険性があります。
3.事前の相続対策
会社の業績が伸びるほど株価は上昇し相続税の負担も増えるため、事業活動を抑制して株価を下げるという不合理な企業行動を招く可能性があります。また、相続税の納税資金の確保のために高額な役員報酬や退職金の支給が考えられますが、事業活動に影響を及ぼすだけでなくほかの株主や従業員の理解を得ることができない場合があります。
4.経営者の個人保証・担保提供
経営者が会社の借入に対して個人保証をおこなったり、会社に運転資金の貸付をしていることが多くあるため相続税に見合った預貯金がたとえあっても、現在および将来の会社経営のため一定の預貯金の確保が相続税の納税を困難にする一因となります。
上記のような事業継承の問題に対して、経営承継円滑法(中小企業の経営承継の円滑化に関する法律)で後継者による経営権確保を支援するために遺留分について特別規定ができています。また、非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税猶予制度(事業承継税制)では、後継者が得た自社部式にかかる相続税・贈与税の負担が軽減されます。